大川硝子工業所

読みもの

びんと古道具。ものに潜むおもしろさを探り続けて

僕の好きな人 vol.1 -後編
Guest 高橋秀之さん(senkiyaオーナー)

前編では二人の出会いの話から始まり、家業を意識しつつ進路を選んだことやセルフリノベーションのカフェに強く影響を受けたことなど多くの共通点がありました。 さらにここからは、それぞれ取り扱う『もの』の種類は異なるけれど、古いものに対する考え方や感覚が二人とも似ていることを中心に話が繰り広げられます。

見方を変えると面白くなる

大川 これまでカフェの話が中心だったけど、広域で見ると古道具の修繕やレスキューもしているよね?それはヒデさんのある種のライフワークだったわけでしょ。そういうことに惹かれたきっかけはあったの?

高橋 やっぱりSHOZO CAFEかな。古いアパートをリノベーションしていて、それを見たことが潜在的にあると思う。このカフェは元々母屋で昔から住んでいた家だけど、この時代のものがこんなにもかっこよく見えるんだ、という発見があった。しかも省三さんは今から30年以上も前のバブルの時代に、新しいものではなく拾ってきたものでお店を作っていたんだよ。それが衝撃的で、まだ古道具という言葉が一般的でない時代にやっていたからね。

高橋 俺らの時代は、レトロブームやアジアンブームがひと通りあって、最終的に日本の古いものいいよね、と落ち着いたのかもしれない。当たり前にあったものが、こうするとかっこいい、かわいいって視点が変わった。
ただ古いものだけを集めるのはただのコスプレになるので、新しいものも古いものも合わせて、自分がいいと思うものだけをチョイスしている感覚だね。

普通の古道具屋では置かないようなものもセレクトするようにして、それが自分たちの面白みになっているんじゃないかな。昔小学生が買ってくるお土産のタペストリーみたいなものとか。ズッコケたものやふざけたものがずっと好きで、それが自分の通ってきた道だったから、凛とした感じにはしたくないという思いはあったね。
古道具にはいい違和感のある使い道とか、ものの面白みがあって。昔はこう使っていたよとか、こうやってものを活用できるんだとか、家の中にずっとあるものも、見方を変えるとすごくいいものになるじゃん!っていうヒントがあると思う。

大川 そこを楽しむという感覚だよね。

高橋 うん、大川くんの地球びんもそうだよね。リデザインしているというか、古いものの見方を変えているよね。

大川 そうだね。俺らの若い時だと古着ブームやミッドセンチュリーとか古いものに対する流行りがあって。今はサステナブルの考え方で古いものが注目されているけど、俺らの世代だと単純に古いものをかっこいいとするブームがあった。

ある種ファッション的に軽く受け入れていたけど、今の若い子たちはすごくロジカル、アカデミックに受け入れている感じがするよね。視点が全然違う。 でも堅苦しいことは考えず、好きか嫌いかの判断でいいんじゃないかと思うことはよくあるかな。

新しいものを作るのではなく、見せ方を変える

大川 地球びんをリブランディングしたのは会社の状況を立て直すためだったけど、最初は新しいものを作らないとものは売れないという固定観念があって。
でも。D&DEPARTMENTの影響で考えが変わって既存のものでも見方を変えれば、新しいものとして売れるという考え方を知ったんだよね。

びんは生活のいろんなところにあるから、見方を変えてこだわれる場所はいっぱいあって、そこが魅力的だった。それに今すごくラッキーなことに環境に対する取り組みが増えている中で、ガラスびんは天然資源でできているから時代のニーズにとても当てはまっている。
大川硝子としては100年以上ガラスびん一本でやって来たけど、ガラスびんそのものの製法も素材も初めてこの世に出来た時から大きくは変わってないんだよね。

高橋 えー!

大川 ガラスは素材が紀元前からあって、その時と材料は全く変わってない。作り方も人間が作っているか機械化しているかの違いだけで、製法は一緒。
だからできた時点で完成されているので、変えようがないものだと思っている。何千年もの時を経てきたけど、ガラスびんそのものは変わらずに今も同じやり方で作っている。そこがガラスびんの魅力かな。

『絶対割れないガラスってできないですか?』という相談がくることもあるけど、そうなると今までと違う製法や素材にする必要があるし、コストも上がって結局実現しない。コストやニーズを加味していくと今のものに行き着くの。完成されているけど、完成されてないような、そういう荒っぽいところも俺は好きで、だからこそ憎めない。

ものにはストーリーがある

大川 ものとの長い付き合い方について、どう思う?

高橋 ものがあふれてなかった時代はひたすら直して使っていたし、簡単に捨てない、大事にしなきゃっていう感覚があった。替えが効かないというか、危うさがあるからこそいいと思うね。

大川 例えば、ヒデさんはそのものに眠っているストーリーって好き?どうやってそのものがここまで行き着いたかといった背景とか。

高橋 それもある。経年劣化を含め、持ち主がどんな使い方をしていたかとかね。 レスキューしたお家で、故人が作ったものについて話をすることも大事だし、それを説明するのが楽しかったりする。単に古道具屋さんで買って来たものにはない面白みに繋がるし、背景を知っていると知らないとではものとの付き合い方も変わってくるし。

大川 ヒデさんは根源が好きだからでしょ?

高橋 好きだね。環境問題まで考えてレスキューに取り組む人もいるけど自分はそこまで考えてない。ただ好きで集めたのがスタート。

大川 でもね、やっぱり好きに勝るものはないから、そこが他にはないヒデさんの魅力だと思う。
俺はびんに感謝はしているけど、好きとは違うんだよね。でもびんについて自分がやっていることは、業界の中で俺しかいないっていう妙な自信はあって。それはびんの見せ方や伝え方を考えることは好き、という気持ちがあるからかもしれない。
この会社に入ってからフリーランスの友達に影響を受けたように、社会的意義とか大義名分で対抗しても、結局好きには太刀打ちできないってつくづく思ってる。やっぱりそういう姿勢でいる人には圧倒的な魅力があるよね。