大川硝子工業所

読みもの

コーヒー屋が生活の一部にあるスタイルに憧れて

僕の好きな人 vol.3 -前編
Guest 灰谷歩さん(muumuu coffee店主)

ガラスびんを軸としながら、さまざまな分野の方とともに日々活動している大川硝子工業所。そんな大川硝子にゆかりのある人と代表の大川が、仕事や生活にまつわるあれこれをトークする「僕の好きな人」。

第三回目の対談のお相手は、 東京墨田区のコーヒーとけん玉のお店・muumuu coffee店主の灰谷歩さんです。大川硝子工業所のご近所にあり、大川にとってサードプレイスのような場所。くだらない話から真面目な話もフラットにできる場で、店主・灰谷さんの取り組みや行動力は大川硝子にも大きな影響を与えています。

店・客という関係性を越えて、通ずるところがあるという二人。毎週のように会う仲だけれど、改めてこれまでとこれからについて語り合いました。

映像越しの、衝撃の出会い

大川 アユムくんとの出会いは2016年で、muumuu coffeeがいまとは違う場所で運営してた頃かな。お店の存在を知ったのは、前回対談した関山くんの「TOKYO ACOUSTIC SESSION」というプロジェクトで、フランスから来たバンドがセッションしている映像を見たことがきっかけなんだよね。そのロケ地がmuumuu coffeeだったんだけど、地元にこんないい感じの場所あったんだ!ってすごく衝撃を受けて。

灰谷 映像のロケ地をきっかけに知ってもらえるなんて思ってなかったから引き受けてよかったな(笑) でもよく気づきましたね。

大川 馴染みのある商店街だったしね。俺にとっては子供の頃から親と買い物に来るような場所だったから驚きもすごかったんだよ。
で、地元の洒落た馴染みのカフェに足を運ぶ生活に憧れてたから、見つけてすぐにいいなって思ったんだよね。

灰谷 実際に来てみてどうでした?

大川 DIY的な作りで素敵だなって率直に思ったよ。でも、正直ちょっと警戒心があったんだよね。当時ってアート系の人たちがこのまちに来て何か仕掛けるようなことが盛んになり始めていた頃で、定着してる人も多いけど、ちょっと盛り上がってすぐどっか行っちゃう人も結構見てきたから、このお店はどうなんだ?みたいな気持ちが少なからずあってさ。

灰谷 当時僕もお店がどうなるかわかんなかったですからね(笑) いろんな人が来てくれて楽しかったから、結果的にまちにも愛着を持ってお店を続けられましたけど。

大川 そんな感じで好感と警戒心を抱きつつ一度行ったきり間が空くんだけど、SNSで情報は追ってたのよ。で、いまの場所に新しく移転するというのを知って、やっぱり気になる存在だなと思ってそこから通うようになったんだよね。

灰谷 結果通ってくれるようになってよかったです。地元の人に受け入れてもらえるのはやっぱり嬉しいし。

楽しいことにまっすぐな生き方

大川 アユムくんはコーヒーを始める前からずっとバンドで活動をしてたけど、それはどういう経緯なの?

灰谷 バンドを始めたきっかけは、結構あるあるですけど高校の文化祭ですね。でも、高校のバンドは一回解散してて。その後進学した音楽の専門学校で別のメンバーと組むことになって、そこから音楽性を広げるために高校の同級生に声かけたり、専門の他の子に入ってもらったりで、7〜8人と大所帯になっていったんですよね。

大川 高校の文化祭の時から、バンドの音楽性は一緒だったの?

灰谷 いや、もう全っ然違いますね。僕は楽器を始めたのも音楽を掘り始めたのもめっちゃ遅くて、中3の頃は森高千里ばっかり聴いてましたもん。

大川 あっはっは!

灰谷 高校の文化祭の時はビートルズとかボン・ジョヴィとかエアロスミスとかで。楽器にしてもとりあえず弦を弾きたくて、でもギターは弾けるやつがいたからじゃあベースにするかくらいのノリで始めたんですよね。

大川 俺も実はベースをやってたんだよね。あんまりやる人がいないから、ベースをやっておけば声がかかって、すぐにバンドが組めるなっていう魂胆もあって。

灰谷 すごい。僕は全然そんなことまで考えてないですよ、弦を弾きたいだけだったから。
そんな感じだったので、最初はそれぞれの好きな曲をやるコピーバンドだったんですよ。でも、はじめてメンバー全員で音を鳴らした時の衝撃は結構覚えてて、生音で一応それっぽい音になった時には感動しましたね。「すげえ!CDみたいだ!」みたいな。めちゃくちゃ下手だったんだろうけど(笑)

大川 ああ〜わかる(笑) でも、そこからバンド独自の音楽性を持っていくんだよね?

灰谷 バンドメンバーとお互い影響を与え合ってましたね。
あと、さっきも言ったように僕は音楽的な流れを堀り始めたのが遅くて、すごく飛び飛びで凝縮されて吸収してるんですよ。スキップしてるジャンルもたくさんあって、メタルもハードロックもオールドロックもほとんど通ってない。
ただ、それが自分的にはよかったとも思ってるんです。音楽史に対する先入観や固定概念がそこまでなかったから超自由な音楽の作り方ができた気がしますね。まあ後々理論的にも技術的にも詰むんですけど(笑)

大川 いまの生き様に近い感じがするね。あと、アユムくんって楽しいことを増幅させようという意識をすごく感じるんだけど、それは昔から?

灰谷 覚えている限りだと小学生から友達を巻き込んでいろんな遊びをやってた気がしますね。校舎全部使って鬼ごっこするとか。中3ぐらいまでやってましたもん。

大川 (笑) その感覚はいまも変わってないかもね。
人と外れたことをやるみたいなところは、自分と似てるなと思うんだけど、そういうのってなかなか理解されないこともあって思春期は悩んだりもしたなぁ。アユムくんはそういう悩みはなかったの?

灰谷 大川さんは繊細で思慮深いと思うんですよね。僕は衝動でやってるだけだからあまり深く考えてなくて。だから、そういう悩みみたいなものは本当に記憶にないんですよね。
今の若い子たちの話聞いても、ティーンネイジャーでそんなこと考えてるの!?ってよく思います。僕は何も考えないで中3まで鬼ごっこやってたから(笑)

きっかけは、海外で見たライフスタイルへの憧れ

大川 アユムくんは高校の頃からずっと音楽を続けてきて、そこからコーヒーをはじめたきっかけは何があったの?

灰谷 元々コーヒーは好きで飲んでて、最初にコーヒー屋いいなと考えるようになったのは、20歳の頃にイタリアのクレモナという街に行ったときですね。街中に小さなバルがたくさんあって、そこでエスプレッソをサクっと立ち飲みしていくスタイルがかっこよくって。当時の日本では自販機で缶コーヒーを買って休憩するところを、イタリアではバルでバリスタが淹れてくれるエスプレッソを1ユーロとかで飲めて、すごく豊かな気がするって思ったんですよね。
あと、朝にバルで飲んでる時に、地元のお客さんがどんどん入ってきてバリスタの人もそれぞれとナチュラルに会話してたんです。その光景を見てそのお店が生活の一部になっている印象を受けて、自分が店をやるなら一人で回せるスケールで地元の人とゆっくり会話できる感じがいいなと漠然と思ったんですよね。

大川 結構若い頃から思いがあったんだ。あと、その後しばらくしてメルボルンにも行ってたよね。

灰谷 メルボルンは音楽活動を兼ねてワーキングホリデーに行ったんですけど、そこでもコーヒーカルチャーに触れましたね。接客がマニュアル的ではなく、ちゃんと人と会話している感じがして気持ちよかったんです。おいしいし嬉しいし、気持ちいい空間だし、何回も来たくなる場所だなというのを身をもって体験して。あと、コーヒー屋だと朝が早くて、夕方には店を閉めるから、その後の時間が使えるという生活のサイクルもいい。そんなことを思いながら、現地でバリスタの学校に通って、帰国してからコーヒー屋で少し働いて、その後たまたまいい物件が見つかって、やるなら今しかない!ということでmuumuu coffeeを始めることになったんです。

大川 中3まで鬼ごっこしてたアユムくんだけど、いまの話聞くと大人な部分もあるよね。20歳で海外に行ってバルを見て豊かだなって思うなんてさ。

灰谷 当時某チェーン店でバイトしてたから余計にそう見えたのかもしれないですね。そこは接客にマニュアルがあって、お客さんと会話することがあまり許されないような環境だったので。僕はどこの職場でも絶対良かれと思って私語するんですけど、マニュアルに反するからとにかく怒られる(笑)

大川 元々海外生活していて、日本で海外のスタンスで対応したら怒られるみたいなパターンはあるけどアユムくんは逆だよね。海外に行ったら俺がやってることってここだと普通じゃんみたいなことでしょ?

灰谷 そうそう。ずっと疑問があったけど、俺のやり方でいいんじゃん!みたいな。

大川 俺も外れたところがあるから、会社員時代は悩んだりしたよね。でも、大川硝子に入ってから自分の外れた感覚でやったことが評価されることがあって。その時に、俺の考えは大衆受けはしないかもしれないけど、コアな層にはハマるんだと気づいて、すごく自信になったんだよね。
その同時期にアユムくんに出会ったんだけど、なんか突飛なことやってるなと思いつつ、周りのみんながすごく楽しそうにしてるのを見て、そういうスタンスって全然いいんだなと背中を押されたんだよね。

灰谷 嬉しいなあ。知らないうちにいい影響を与えてたんですね。