大川硝子工業所

読みもの

バンド活動から繋がるクリエイティビティマインド

僕の好きな人 vol.3 -後編
Guest 灰谷歩さん(muumuu coffee店主)

ガラスびんを軸としながら、さまざまな分野の方とともに日々活動している大川硝子工業所。そんな大川硝子にゆかりのある人と代表の大川が、仕事や生活にまつわるあれこれをトークする「僕の好きな人」。第三回目の対談のお相手は、 東京墨田区のコーヒーとけん玉のお店・muumuu coffee店主の灰谷歩さんです。

前編では二人の出会いから、コーヒーのお店を始めるに至るまでを語りました。
後編では、コーヒーから発展して、海外展開やまちづくり、今後の野望の話へと広がっていきます。

いろんなところで生きていけるようになれば、いまの場所でもっと頑張れる

大川 アユムくんからの影響って他にもあって、仲良くなって間もない頃に「いまパピリカ(メルボルンにある灰谷さんの知り合いの飲食店)でバイトを募集してるんですけど、バリスタとしてやれないかな~」って、隣町にバイトしに行くような感覚で言ってたことがすごく印象に残っていて(笑)
正気か?って思ったんだけど、それってビジネス的に言うと投資的発想なんだなって。会社をやってるとつい損得を考えてしまうけど、お金にならない経験にもちゃんと価値を見出して、自分に投資するという考えを持たなきゃいけないなって思わせてくれたんだよね。

灰谷 え〜嬉しいですね。

大川 そしてそれが海外展開を意識するキッカケだった。アユムくんに出会う前から海外への憧れは漠然とあったけど、仕事を介して関わりを持つことはないだろうと決め込んでいて。
でも、うちのFamiliarシリーズをリブランディングした時に、結構反響があって全く意識してなかった海外からの注文が入ったりして。そんな時にアユムくんのメルボルンでの話を沢山聞いて、自分からも海外に目を向けていかないといけないなって思い始めたんだよね。
で、その後家族旅行としてメルボルンに行くんだけど、アユムくんにパピリカをすすめられていて、「何かあるかも?」と思って商品を持っていったんだよ。

灰谷 おお! 確かにパピリカのレトロな雑貨の雰囲気とぴったりだもんなー。

大川 そしたら「めっちゃいいじゃん!」と言ってもらえて取り扱いが決まって。そこから自信もついて、それがメルボルンでポップアップをやることにも繋がっていくんだよね。だから海外展開はアユムくんに背中を押してもらった部分がすごく大きかったよ。

灰谷 いや〜、そうだったんですね。さっきのパピリカでバリスタをできないかなという発言は突拍子もない感じだったかもしれないけど、結構本気で考えていたと思います。というのも、ワーキングホリデーでメルボルンにいた間はまだバリスタとしてのキャリアもスキルもなかったから、地元のお店で働く経験ができなかったんですよ。でもいまなら10年店をやってきて自信がついたし、改めて挑戦したい気持ちがあって。次メルボルンへ行く時にバリスタをやらせてほしいと話してるお店もあるんですよ。やれるといいなー。
あと、経験と人の繋がりがあれば、いろんなところで生きていけるじゃないですか。どこでも生きていけるっていうのはある種の保険になって、思いきりいまの場所で頑張れると思うんです。いまいる場所だけで頑張るのもいいことだけど、不安になる時もあるので、いつでもビビらずに構えていられるようになりたいですね。

大川 選択肢を持つとより身軽に生きていける感じがするしね。

灰谷 そうなんですよ。自分の中で行きたい方向性は明確にあるんだけど、一本だけに決めると折れた時に怖いじゃないですか。だからなんか違うなと思ったら迂回したり、そのまま別の方向に行ってもいいように、いろんな選択肢を持っていたいなと思いますね。

クリエイティブに大切なことはバンドから学んだ

大川 メルボルンでは現地の人とバンドを組んでたんだよね。その時のコミュニケーションとか音楽づくりはどうしてたの?

灰谷 日本にいるときは、結構細かい部分までメンバーにアイデアを伝えて編曲していくスタイルだったけど、メルボルンでは自分の英語力だと細かく伝えきれなくて、音合わせしてみて、あれ?違うなと思っても、(まあいいや)OK!って言ってたんですよ。もう好きにやってもらおうと思って。最初は諦めの気持ちが大きかったんだけど、実際好き勝手にやってみたら、いいグルーヴ感が出てきて、自由にやるのもめっちゃいいじゃんと気づいたんです。確かに考えてみれば、わざわざメルボルンに来てるんだから、こっちの人と一緒に作った音の方がいいし。
その経験を経てから、音楽づくりとか誰かとものを一緒につくる時のマインドが少し変わりましたね。

大川 その感覚はよくわかるな。俺も仕事でウェブサイトとかポスターとかクリエイティブに関わることがあるけど、最初は自分が思い描いた通りじゃないと嫌だみたいな気持ちもあったんだよ。
でも、期限とか詰めきれないこともあって、70%ぐらいで満足せざるを得ないこともあるんだけど、残りの30%は後から好きになればいいって考えるようにしたんだよね。その違和感とかズレが、実はオリジナリティになったりもするし。100%満足したものを作ることもいいんだけど、70%ぐらいにして残りの30%はあとで埋めていくっていう考えも大事だなと。

灰谷 チームでやるときは絶対そのやり方がいいですよね。僕は基本100%を目指したいタイプではあるんだけど、メルボルンでのバンド活動でそういう経験をしたから、ある種の諦めもいい形に作用すると思ってて。

大川 ある程度は伝えたいけど、任せることも大事だよね。学生と一緒にプロジェクトをやってて、あまりピンと来てなかったものが売れたりするんだよ。そうするともう自分の100%の満足なんか超どうでもよくなる(笑)

灰谷 会社の軸がぶれなければ、いろんなやり方があった方がいいですもんね。

大川 さかのぼると、そういう感覚は俺もバンドで経験したのかもしれないな。100%仕上がってなくてもライブの日が来たらやらなきゃいけないし、でもやってみたらお客さんが盛り上がっててこれで良かったんだと思えたりね。

灰谷 結論としてはとりあえずみんなバンドやろうぜw

大川 あはは! でもそうかもね。

灰谷 バンドってチームだし、一緒に一つの表現をするからいいんですよね。組織づくりにも活かせますよ。

今後の野望

大川 そんなアユムくんのこれからの野望とかってある?

灰谷 野望…そうだな〜、やっぱりPING PONG PLATZですかね。

大川 おお! 詳しく聞く前に、PING PONG PLATZとは何か教えてもらってもいい?

灰谷 友達のイタリア人アーティストと墨田の仲間達で、墨田区内に誰でもいつでも無料で使える屋外卓球台の常設を目指しているアートプロジェクトですね。
何がやりたいかというと、卓球台がまちなかでコミュニケーションツールとして作用するんじゃないかと思っていて。空き地だけだと人間の想像力ってあんまり刺激されないけど、キャッチーでシンプルで誰でも楽しめる卓球台が一台あれば「考える」が生まれるキッカケになるんじゃないかと思っているんです。そのあとはもう勝手に人も繋がったり、新しい価値観が生まれたり、いいことが連鎖して起こっていくと思って取り組んでます。

大川 それはドイツのベルリンで見た光景がきっかけなんだよね。

灰谷 そうですね。ヨーロッパでは当たり前の文化で、ベルリンには東京のLUUP(電動キックボード)のポート数と同じぐらいの割合で卓球台が街中にあるんです。だから墨田区もそれぐらいにあればいいのにと思って。10台でも結構インパクトありますけど、100台くらいあったら最高ですよね。

大川 昨年は実証実験みたいな感じでやったんだよね。

灰谷 墨田区の文化芸術の伴走支援型アートプロジェクト「すみゆめ」に採択され、アートプロジェクトとして実施したんです。いろんな場所に卓球台を運んで置いて一時的に卓球台のある空間を作るポップアップイベントをやりました。公園とか空き地とか高架下とか、大川硝子の事務所の前でも協力してもらいましたね。今年は2ヶ月間同じ場所に常設します。前回はずっと誰かが遊んでたけど、遊んでない時間にも何かが生まれるはずなんです。「生活の中に卓球台がある」ということがどう影響するのかを見たいんですよね。
コーヒーもけん玉もそうだけど、そういうキャッチーなものがあるといろんな人が混ざってちょっと違う考えの人と話す機会ができたりすると思うんですよ。いろいろと話しましたが、とにかく一回混ざればいいじゃんと思っているので、そういうきっかけをつくっていくぞ!というのが今後の野望です。

大川 俺もPING PONG PLATZに参加して、いつも挨拶する程度のご近所さんの意外な一面を見たりして、結構収穫があったんだよ。新しいことをやるのってリスクもあるし、ネガティブな面も考えちゃうけど、やれば何かしら良いことが得られるし、とりあえずやってみるということに尽きるよね。
あと、PING PONG PLATZをはじめアユムくんがお店を中心にやってることって、いわゆるまちづくりに関わる部分もあると思っていて。本業ではないけど「結果的にまちづくりしてる人」が個人的に好きなんだけど、アユムくんってそのタイプなんだよね。別にまちづくりしたいと思ってたわけじゃないけど、純粋にこのまちで楽しいことをもっとしたいからやって、面白い人たちが集まってきて、結果的にまちが面白いことになってるみたいな。でもそれがすごく健全な感じがして良いと思うんだよね。

灰谷 まちづくりを本業としている人と僕らの違いは、メジャーとインディーズの違いみたいな感じかなと思いますね。インディーズでやれる限界があって、それを助けるような形でメジャーがあるというか。両方の存在が必要で、僕がまちのために何かやろうとしても、まず僕だけじゃ保たないんですよ。まちのためって主語が大きいし、最初のモチベーションはやっぱり自分のためだと思うし。

大川 それは超重要だよね。まちづくりは一つの分野として手法とか方法論があると思うんだけど、やっぱりそれだけでは片付けられない部分があると思っていて。想いとか情熱がアカデミック的なものを凌駕する瞬間があって、それには敵わない。

灰谷 ここが好きみたいな情熱は最強ですよね。僕の場合はお店を始めてから自分のやりたいことをやり通してきたんだけど、10年も続けているといろんな人が集まってくれるようになって、どんどんこの場所を守りたい気持ちが出てきたんですよ。守りたいというか、この最高な状態をできるだけ続ける、てかさらにもっと楽しいことが起こっていくといいな、みたいな。同時に、そうした環境を許容できるまちになって欲しいとも思うわけですよ。まち全体がそうならなくてもいいけど、いろんな考えが共存できるようなまちにしたいというか。そのためには、ある程度頑張って主張しないとまちにも届かないので、そういう自分の好きな場所を守りたい気持ちや動きが、最近まちにはみ出ちゃってきてるんだと思います。

大川 それってちょっとやそっとで成せるようなことではないし、そこを目指して地道に積み上げて達成するのもいいんだけど、気づいたらやっちゃってたみたいなことがやっぱりかっこいいよね。中は結構泥臭くやってるけど、表向きはサラッとしてる感じで。まちを変えるのは「よそ者、若者、馬鹿者」だってよく言うけど、アユムくんは全部に当てはまってると思う。

灰谷 ありがとうございます!嬉しい!
あ、あと大川さんはそれ!?って思うかもしれないけど、もう一つの野望は新曲を出したいんですよ!

大川 えっ!(笑) そうなの!?

灰谷 いまの生活に対して満足度が高いから、未来というよりは過去を振り返った時にちょい心残りがあるのがバンドなんです。当時は当たり前のようにやってたけど、あの人数が集まって一緒に表現できてたのってもう奇跡だなと思って。今日話しててバンド活動から得たことって大きくて、やっぱりいいなと再確認したし。

大川 そうだね、俺もバンドやりたくなったもん。新曲できたら声かけてほしい(笑)