僕の好きな人 vol.4 -前編
Guest ささまきこさん(「うそみたいなコップ」作家)
ガラスびんを軸としながら、さまざまな分野の方とともに日々活動している大川硝子工業所。そんな大川硝子にゆかりのある人と代表の大川が、仕事や生活にまつわるあれこれをトークする「僕の好きな人」。
第四回目の対談のお相手は、「うそみたいなコップ」作家のささまきこさんです。大川硝子の商品と何度もコラボレーションし、多様なモチーフがプリントされた一点モノのシリーズは常に大反響。まきこさんの軽やかな創作スタイルは、大川硝子にも大きく影響を与えています。
ひょんなことから意気投合し幾度となく活動をともにしている二人。一見飄々としながらも言葉に言い表せないまきこさんの魅力はどのようにして確立されているのか。二人の出会いから紆余曲折がありながらもこのスタイルに辿り着いた背景について語り合いました。
大川 「うそみたいなコップ」にはじめて出会ったのは、2018年の渋谷デザイナーズマーケットというイベントだね。俺も出店者として参加していて、近くのブースに変なコップとかびんがいっぱい並んでまして。
ささ (笑)
大川 当時は活動を始めて何年目くらいだったんですか?
ささ うそみたいなコップを展開し始めたのは2018年4月1日からです。なので、大川さんが参加されたイベントの時はまだ半年経ったくらい。初期衝動にあふれていた時期ですね。
大川 そんなに始めたばかりの時期だったのか! いやもうね、そのコップの並びを見て本当に衝撃を受けてさ。何が衝撃だったかというと、モチーフがパロディというか…完全コピーみたいなものもあるよね(笑)
ささ そうですね、これの何がいいんだと言われることも全然あります(笑)
大川 なんてことないびんにメイソンジャーのロゴががっつり描かれてたりしてね。買いましたけど(笑)
そんな不思議な魅力があるうそみたいなコップは、どういうきっかけで作り始めたんですか?
ささ あれはコップではなくてびんだったけど、たまたまガラスびんを大量に集めている友人がいて、引っ越す際に捨てるのはもったいないからと言ってもらってきたんです。びんという素材自体、大きさも重みもあって存在感が面白いなと思っていて。いろいろな柄を描いていますけど、それぞれなぜ描いたのかはほとんど覚えてなくて衝動のままにひたすら作ってますね。
大川 そういう振り切った感じも伝わってきて、すごく刺さったんだよね。それでどんな人が作ってるんだろうと思って声をかけたらブースにいたのはまきこさんのお友達で。作品だけ置いているということだったから、その後すぐに連絡したのが始まりかな。
あと、俺が一番グッときたところは、自分がビジネスとしてやりたいことをやっている人がいる!と思ったのがポイントだったんですよ。
ささ えっ! ビジネスとして…どういうところがですか?
大川 うそみたいなコップに出会った2018年は、Familiarシリーズをリブランディングして一年経った頃で、割と反響も得られていたので新しい展開としてオリジナルプリントを入れたFamiliarシリーズを作りたいと思ったんです。
ただ、工業的に印刷しようとするとイニシャルコストがネックで、そもそも当時の大川硝子は雑貨の販売力があったわけでもないから、試すにしても結構難しい状態で。
そんな時に俺と感性が似ていて、しかも一点もので少なく作っている人に突然出会ったものだから、もうめっちゃ気になる!ってなって(笑)
ささ すぐ葉山の自宅までFamiliarシリーズ持って遊びにきてくださいましたもんね。お話を聞いて私もぜひ一緒にやりたいと思いました。
大川 はじめて会ったのが2018年で、その翌年に大川硝子としてポップアップを開催することが決まってたので、その時にぜひ並べたいと相談してトントンと進んでいったんですよね。種類もいろんなものを作ってもらって…実は売れるかちょっと自信がなかったんですよ。すごく自分の趣味全開のモチーフでお願いしていたこともあったし。でも実際にポップアップが始まったら、会期早々に売り切れて取り越し苦労だった(笑) それ以降は、ポップアップとか大きなイベントに出店するときは毎回オーダーさせてもらっていて、本当にありがたい存在です。
まきこさん的には、突然見ず知らずのガラス屋から問い合わせが来てどう思いました?
ささ 大川さんから連絡いただく前に、デザイナーズマーケットでブースに立っていた友達から「ものすごく食い付いてる人来たよ」と言われてたんです(笑) うそみたいなコップの活動は、どう思われるかは全く考えずに自分が楽しいという理由だけでやっているので、すごく面白がってくれる人がいると知ってめちゃくちゃ嬉しかったですね。しかもそれがガラスびんの会社さんだっていうのも驚きでした。
連絡いただいた時から波長が合うなと思っていましたが、実際にお会いしてからもびんについて熱く語ってくださったりおもむろにウクレレ弾き出したり…。
大川 え、そんなことしたっけ?(笑)
ささ はい、自由で面白い人だな〜と思いましたよ(笑) 私は本当に軽い気持ちで制作していたんですけど、そのままのスタンスで役に立てるという話をしていただいたのをすごく覚えてます。
大川 いや〜、よかった。そんな出会いがありつつちょっと遡った話も聞きたいんですけど、元々はイラストを勉強していた時期があるんですよね?
ささ そうですね。美術学校を卒業してから細々とイラストレーターをやりつつ、個展を開いたり画塾に通ったりしていました。
大川 子供の頃からずっと絵を描くのが好きで、という感じ?
ささ 小学生の頃は絵を描いてたことくらいしか記憶がないですね。中学あたりからは漫画を描き始めて、好きな小説とかバンドを題材にして同人誌作ってコミケに出たりしてました。
大川 へ〜! 意外だなあ。
ささ もうめちゃくちゃオタクでしたよ。いわゆる陰キャの人たちと教室の後ろに固まってるみたいな。部活にも入らずスクールカーストの底辺にいましたね。
大川 (笑) 高校も特に美術系とかではない?
ささ ちょっと考えたんですけど、結局普通の高校に進学しました。でも中学から学校にはほとんどまともに行ってなくて、高校で完全に力尽きて辞めたんですよ。その後、一応通信制に入り直して高卒認定はかろうじてもらえて。そのままフリーターしながら美術学校に通うようになり、いまに至ります。
大川 美術学校に通い始めたきっかけは、やっぱりイラストを生業にしようという志があったの?
ささ いや、そこまで考えてませんでした。ひたすら手を動かしているのが好きだから通い始めたんですけど、学校側も生徒への指導が一切ないんですよ。とにかく毎日いろんなモデルが来て、クロッキー(素早く描画)を繰り返すのみで、特に講評もしない。卒業してもいいし、そのまま描き続けてもいいみたいなスタンスで、超自由でしたね。
大川 へ〜、面白いね。まきこさんのスタイルの礎を感じるな。
ささ 完全に美術学校のせいですね(笑) そこでは誰にどう思われるかは関係なくて、誰かに選ばれるとか誰かに寄せるとか稼ぐ必要があるとか、そういう価値観は一切ないんです。ただただ自分を掘り下げるだけ。
大川 じゃあ割とそこでスタンスが作られて、いまも変わってない感じなのかな。そんな美術学校時代を過ごした後はどうしてたの?
ささ イラストレーターとして活動し始めて、運だけはいいので面白い仕事に結構声をかけてもらえてたんです。ただ、描くこと自体は変わらず好きだし楽しいけどクライアントとすり合わせることが苦手で、私には向いてないかもと焦ってたんですよね。で、そんな時に子供が生まれて、それまではイラストレーターとして活動していくために周りに自分をどう見せるか考えながら頑張ってたんですけど、そこに費やす時間が強制的に一切なくなって。
このままどうしようと考えていた時に、山田博之さんというイラストレーターの方の画塾を見つけて、たまたま1席空きが出て通わせていただけることになったんです。
大川 山田さんの塾ではどんなことするんですか?
ささ まず、山田さんってイラストレーターとして大御所なんですけど、ご本人はとても自然体な方なんですね。そんな山田さんが半年間の画塾で伝えたいことが、「全部の力を抜く」ということなんです。イラストレーターやアーティストを目指す人たちって、如何にいろんなものを身につけて、自分に価値があるように見せるかみたいな沼にハマってしまう人が多いので。本当は描きたいモチーフがあるけど、仕事が来るからという理由で違うものを描いたりして、いつの間にか自分を見失うみたいな。でも、山田さんはその人をどんどん掘り下げて、「あなたの核はここだよね」と露わにしていく感覚なんです。同期が5人いたんですけど、全員最初の頃に描いていた絵と最後の絵は全然違っていて。でもどんどん描くことが楽しくなるんです。
あなたにしかできないことがあなたの個性だから、自分を認めてあげて隠そうとしていることを全面に出すことがあなた自身の表現になるという教えなんですよ。
大川 まきこさん自身にも本質的にそういう部分があったと思うけど、山田さんの教えがあったからこそそれがより明確になったんだろうね。あと、年齢的にもある程度大人になった頃だからこそ、その出会いがいまのスタンスに深く結びついている気がする。
ささ うん、それはかなりそう思いますね。
大川 やっぱり学生の頃だと、まだ経験が少ないから社会と自分との接点に具体的なイメージを持てないけど、大人になってある程度経験を経ているとビジネスの中に自分らしさをどう結びつけるか見つけやすくなる気がしますね。
ささ 私の場合は「飽きるとこでやめな」とよく言われていて、だから水彩は乾くのが待てないから色鉛筆で描くようになったり。絵は大体子供が寝た後に描くんですけど、集中している時に子供が泣いてイラっとしてしまう自分が嫌なんです。だからいつ起きてもすぐ対応できるよう5分だけ集中して描くくらいが気持ち的にちょうどいいなと気づいていきました。
例えば、ワインのラベルなんかは一部だけ異様に集中してそれ以外は余波で描いたりしますが、それでも達成感があるんですよね。メリハリがつくから、他の人が見てもすごくかっこいいねと言ってもらえるんです。全部をしっかり描こうとせずに、ある部分だけ突き詰められたらいいというのは私にしかないことで、仕事でも誰も真似できないことだと思ってます。
大川 それは確かにそう思う。まきこさんって飄々としてるけど、いろんな経験を経て突き詰めた結果のスタイルなんだよね。