大川硝子工業所

読みもの

楽しいは楽しいを呼ぶ。RELAX〜OPEN〜ENJOYで通ずる二人

僕の好きな人 vol.4 -後編
Guest ささまきこさん(「うそみたいなコップ」作家)

ガラスびんを軸としながら、さまざまな分野の方とともに日々活動している大川硝子工業所。そんな大川硝子にゆかりのある人と代表の大川が、仕事や生活にまつわるあれこれをトークする「僕の好きな人」。第四回目の対談のお相手は、「うそみたいなコップ」作家のささまきこさんです。

前半では二人の出会いから、ささまきこさんのスタイルが確立された背景を振り返りました。
後編では大川の心を掴んでやまない、まきこさんが手がける「うそみたいなコップ」の魅力に迫ります。

うそみたいなコップ誕生へ導いたのは、不思議な運と縁

大川 画塾を経ていまに繋がるスタイルが確立されたわけだけど、そこからうそみたいなコップの誕生にはどんなきっかけがあったんですか?

ささ 絵の向き合い方についてしっくり来るところに辿り着いた時に、夫の妹さんがたまたまポーセラーツ(※日本ヴォーグ社が提唱する磁器絵付けの総称。まっ白な磁器に転写紙や上絵の具で絵柄をつけて焼き付けるキルンアートの一つ)の教室を実家でやることになって。ちょうど私も里帰り中で夫の実家にいたので、そこでポーセラーツの技法を教えてもらったんです。

大川 里帰り中だったんだ(笑) やっぱり不思議な運を持ってるなあ。

ささ そうなんです。そのまま一年住まわせてもらって。山田さんの画塾に通いつつ、子供の世話をしつつ、新しい技法も学び始めたんです。

大川 ポーセラーツってヴィクトリア様式のようなエレガントな図柄を転写するのが主流ですよね。

ささ そうですね。基本的にはいろんな図柄があらかじめ用意されているんですけど、そういう図柄にはなかなか私の好みのものがなくて。でも、ある時に無地の転写シートを渡されて、これは…!と思ったんです。無地だけどいろいろな色があるので、シートを切り貼りすれば自分で好きな絵柄を作れるんです。そこからすごい楽しくなっちゃってずっと無地のシートで作ってました。

大川 基本は陶器に転写すると思うけど、ガラスにも転写できることはどうやって知ったんですか?

ささ それも妹さんが教えてくれて。彼女自身いろいろな作品を作って部屋に並べていたので、こういうことができるんだ〜と面白く眺めてたんです。で、その中にガラスのものもあった感じですね。

大川 そこからうそみたいなコップに繋がっていったんだ。タイミング的にはちょうど山田さんの画塾で自分探しができて、妹さんから新しい技術も学んで変化があったわけじゃない? その中で、これまで平面で描いてきたけど、人が日常的に使うものに自分の絵を描くことへの面白さもあったりしたんですか?

ささ (被せ気味に)それはないです。ふふふ。

大川 あはは! じゃあもう純粋にただ自分が楽しいってことなんだね。
その後は葉山に引っ越して、そこからうそみたいなコップが誕生する流れ?

ささ そうですね。葉山ではご近所にアートディレクターをされている方がいて、その方が主体となって空いているテナントでイベントをやろうという話があったんです。そんな中で私もイラストを描いてることを知ってくれて、なんか置いてみなよと声をかけてもらったのがきっかけですね。

大川 運もそうだけど、いい縁も持ってるよね。

ささ それでポーセラーツの技法でコップにイラストを描けるなと思い付いたんです。素材についても、ちょうど逗子に近隣住民がいらないものを持ち寄る場所があって。そこに行くとブランドのお皿とかガラスコップがめちゃくちゃあるんですよ。で、そこからタダでたくさんもらってきて、深く考えずに好きな絵を描いて展示しました。
会場の片隅で10個くらい置いていただけなんですけど、すごくいろんな人が面白がってくれて、大川さんが参加したデザイナーズマーケットを企画されてる方もそこで声かけてもらったんです。

大川 へ〜! すごいトントン拍子だ(笑)

ささ 特に商品名もなかったんですけど、開催日がエイプリルフールだったのでそのイベントの名前が「うそみたいな日」で、「うそみたいなコップ」でいいかとあっさり決めて(笑) いきなりいい展示会に出たみたいな感じですね。

大川 偶然のようだけど最初からもういろいろな要素が揃ってたんですね。ちなみにコップはどれくらいの製作期間でできるんですか?

ささ 私はめっちゃ手が早いので、絵を描くのは長くて10分くらいですね。あとは窯に焼いてもらうだけなので、私の作業時間はすごく短いです。好きだと思うものを反射的にパッと描くだけで、子育てとの両立を考えるまでもないぐらい簡単。

大川 それはいいね。在庫になっても少数だから続けられるし、なくなったら作ればいいし、素材はいくらでもあるし。

ささ それぐらいのパワーで作っているので、「なんでこんなものが売れるんですかね?」とか批判的なことを言われても、その気持ちもよくわかるので傷つかないんです。楽しいから作っているけど、自分のプライドを賭けた作品というわけでもないので、気軽に作って気軽に売っている感じですね。

大川 前にも世間話的に聞いてたからそのあたりのことは知ってたけど、改めてまきこさんは無敵の人だよね。
これまで俺が対談してきた人って、一緒に仕事をしてきたという関係性はもちろんあるけど、みんな心の支えになってる人なんです。まきこさんの場合は自分をしっかり持っているけどギラついていないじゃない?

ささ あはは(笑)

大川 それはやっぱり生まれ持ったものもあるだろうけど、それを築き上げてきた瞬間がしっかりあると思うんですよね。ちょっと失礼かもしれないけど、まきこさんのやってることって実は他の人でもできることじゃないですか。

ささ あ、そうそう! そうなんですよ。

大川 ワークショップでもやってくれたように、ものさえ揃っていれば誰でもできることだけど、誰も真似してこないんですよ。真似しようとしても売れようという気持ちがあると絵に商売っ気が滲み出てきて長続きしないんだろうなと思うし。でも、まきこさんって本当にそういうのがない。だからか買いに来る人がすごい楽しそうに来るんですよね。

ささ そうなんですよ。伝わるんだな〜って思いますね。

大川 その光景を見ると、素敵なものを売ってるな〜って思うんですよね。俺はどうしても会社としてやってるからビジネス臭を漂わせちゃう瞬間があるから、まきこさんと会うことで浄化して、心とビジネスを清めてもらってる(笑) あと、今日まきこさんの話聞いて、改めて計算してないなと思ったな。

ささ 計算できないですからね(笑) できる人はどんどんやったらいいと思うんです。ビジネスだってすごく面白くてワクワクするなら、腹黒いこともやっていいと思うし。それで最高な気分になれるんだったら突き詰めた方が幸せですよね。できないことを無理にやろうとするといつかボロが出ますから。

大川 楽しいは楽しいを呼びますもんね。それは逆も然りで、嫌なものは嫌なものを呼ぶから、俺はすごくそれを心に留めていて。だからなるべく楽しい人と仕事でも関われるようにすることを大事にしていて、そのうちの象徴たる人がまきこさんなんです。

ささ え〜ありがとうございます。

その人を抱きしめるようなモチーフ

大川 作品のモチーフは何か大事にしてることとかアイデアの出し方ってあるんですか?

ささ やっぱりコップは日々使うものなので、目にした時にポジティブな気持ちになったり自信を持てるような存在であってほしいなと思います。あと、私は全ての人に言いたいことがあって、それは「無理をすることは良くない」と「あなた自身で完璧である」ということなんですよね。

大川 すごい諭してくれる…!

ささ やっぱり私自身が元々陰キャで、底辺を這うようにして生きてきてるんですど、メンタルを病んじゃうともう全てがうまくいかないんです。だから、一人一人が病まない、恨まないように、みんなの自己肯定感を上げたいと常に思っています。

大川 前に話を聞いた時も、人を陥れないとか嫌な気持ちにさせるようなモチーフには絶対にしないで明るい気持ちになってほしいと話してくれたけど、根底としては自分の過去への想いがあったんだ。

ささ そうなんです。だからどんなに小さい絵柄でも変なモチーフでも、絶対その人を抱きしめるようなものでありたくて、その想いをコップにぶつけてますね。

大川 なるほどね。あと、まきこさんの絵ってかっこつけてないところがいいと思うんです。やっぱり大衆受けするものを考えると、多くの人が見て魅力的に感じるような凝ったクオリティのものを作るじゃないですか。でもまきこさんのコップはそのあたりがシンプルというか、難しさとか凝ったものを感じさせないんですよね。そういうわかりやすさってすごく大事だと思うんです。ちなみに描くネタのストックとかってあったりするんですか?

ささ 本読んでて刺さった一文とか印象に残った映画のワンシーンとか、すごくいいと感じたものはいつもノートに書き溜めてます。ただ、それを見ながら作ることはなくて、実際に作る時は完全に忘れてます。ふとした時に思い出して描いたりはしてますね。

大川 なんか曲作りみたいですね。まきこさんって僕からするとミュージシャンっぽいところがあるんですよ。

ささ え〜嬉しい! ミュージシャンなんてかっこいい!(笑)

「RELAX〜OPEN〜ENJOY」の大事さ

大川 うそみたいなコップって本当はいろいろ考えて作ってるんだろうなと思う瞬間もあるんだけど、今日の話を聞くと改めて根っこの部分はすごく素直にナチュラルにやってるんだなとわかってやっぱりそこが好きだなと思いました。
あと、お互いに真心ブラザーズ好きじゃない?

ささ そうなんですよね。私は真心ブラザーズで漫画を描いてましたから。

大川 えっ! そんな同級生がいたらめっちゃ仲良くなってたな(笑)
でさ、コップのモチーフにもなってる「RELAX〜OPEN〜ENJOY」って曲があるけど、まきこさんが言いたいことにすごく合ってるなと思ったのよ。まきこさんを表現するとしたらこの三単語に限るみたいな。

ささ いまは以前のように、クライアントの希望に時間をかけて汲み取ったり締め切りがあったりみたいな生活をしていないから、なおさら「RELAX〜OPEN〜ENJOY」の大事さをすごく感じますね。そういう状態で過ごしていると本当にどんどん楽しいことが来るんです。多少辛いことがあっても全然へっちゃらというか。

大川 やっぱりまきこさんって自由なんだよね。自由って別に無鉄砲とか自分勝手ということではなくて、いろんな責任を負いながら自由でいることもできるし。自由にしてて人を傷つけなければそれが最強だと思ってるんですよ。

ささ 本当にそうですね。

大川 いまの若い子なんかはどんどん落ち込んじゃう子がやっぱり多くて。そういう子にまきこさんのスタンスを知ってほしいな。

ささ 若いとなかなか気付けないことも多いですからね。私たちの年代になると、早くして亡くなる方も身近にいたりして人は簡単に死ぬんだなというのを身に染みて感じるんですけど、そういうことに気づいた時にはじめて悩みが消えるんじゃないかな?

大川 やっぱり時が解決するものなのかもしれませんね。

ささ 若者はもう悩むことが仕事ですからね。悩めるだけでハッピーですよ。本当に病と闘っている時なんかは悩んでる時間もないし選択肢もないわけで。選択肢があって自分に期待しているからこそ悩めますからね。

大川 確かに。そんな自由なまきこさんだけど、今後の野望って何かあるんですか?

ささ 海外に行きたいです。いろんな価値観を吸収したいというか…やっぱりおばあちゃんになった時もコップを作るときのような軽い気持ちで絵を描いていたいんですよ。そうなった時に、またどんどん自分を柔らかくしていきたいからもっといろんなものに触れていきたいですね。

大川 まさに「RELAX〜OPEN〜ENJOY」だ。その夢は叶えてほしいな〜。

Special Thanks:余白社