大川硝子工業所

読みもの

安さでも量でもない、びんが次に目指すべき場所

僕の好きな人 vol.7 -後編
Guest 中野達也さん(株式会社山村製壜所)

ガラスびんを軸としながら、さまざまな分野の方とともに日々活動している大川硝子工業所。そんな大川硝子にゆかりのある人と代表の大川が、仕事や生活にまつわるあれこれをトークする「僕の好きな人」。第7回目の対談のお相手は、株式会社山村製壜所の中野達也さんです。

前編では、1980〜90年代にガラスびん業界が盛り上がりを見せていた頃のキャリアについて伺いました。
後編では、さまざまな時代・立場を経て感じる、業界全体や個人としての展望について語り合いました。

ミリ単位のこだわりの可能性

大川 ガラスびん業界は生産量が減って縮小傾向にありますが、新しいものをつくろうと可能性を広げていく山村製壜所のスタンスは、結果的に時代にフィットしているように感じます。
中野さんはさまざまなディーラーの方と仕事されてきたと思うんですけど、大川硝子はどう映っていますか?

中野 まず、すごく訪問しやすいんですよ。

大川 あはは! それは嬉しいです。

中野 通常はたくさん準備をして商談に向かいますが、大川さんとはもう少しフランクというか。特に会長とはガラスびんと関係がない雑談が大半ということも少なくありませんでした(笑) でも、そうした“人としての付き合い”ができている感覚がありますね。

大川 会長は営業の方に対しても製造の専門的な話を結構するタイプですが、中野さんはもともと製造畑にいたから話が合うんだろうなと思いますね。

中野 大川さんからの仕事は、新しいものをつくりたい側としては面白いです。営業なので自分が製造するわけではありませんが、社内、デザイナー、金型メーカーを巻き込んで「こんな依頼来てるけど、これは無理じゃないか? でもこうしたらできるかも」とああだこうだ楽しく話し合ってますよ。

大川 カキモリさんのインクびんやBINKOPも、中野さんのおかげで無事に実現できました。

中野 新しいものをつくるときって、こだわればこだわるほど問題が立ちはだかるので、現場から断られることが多いんです。でも、私の方から「こうしたらできるんじゃないか」「昔はこうできたのに今はできないのか」と言ってみると、製造側も火がついたようにいろいろ考え出すようになってくれるんです。
技術や構造上、すべての要望を満たすことは難しい場合もありますが、折り合いをつけながらいかに実現に近づけられるかを考えることは面白いですよね。

大川 中野さんのような存在は本当に貴重で、頼もしいですよ。いろいろなものを手掛けてきたと思いますが、売れるものって感覚でわかるものなんですか?

中野 やっぱり売れるものは一目見て違います。ある案件でデザイナーの要望通りにつくったものの、「もう少しだけここを…」という微々たる調整を求められたことがあって、正直大して変わらないだろうと思ったんですが、いざ調整すると断然良くなったことがありました。それは実際に長く売れる商品になっていますしね。

大川 BINKOPもだいぶ細部にまでこだわりましたが、どういった印象でした?

中野 コップの使い方を目的としたガラスびんだったので、口当たりの良さにはかなりこだわりましたよね。

大川 以前、取引先の数十社にBINKOPを選んだ理由をアンケートしたら、6割が「デザイン」を一番の理由に挙げていました。リサイクル性やサイズ感はその次で、最初の入口は見た目に惹かれたと。
いいものにしたいと思ってデザイナーさんとこだわり抜きましたが、それがどこまで受け入れられるか半信半疑だったんです。でも、結果的にデザインが決め手になったという声が多く、こだわってよかったなと思いましたね。

中野 「大体こんな感じで」というざっくりした依頼もありますが、そういうものはやっぱり売れませんからね。いいものはちゃんと手に取ってもらえると思います。

これからのびんの価値とは

大川 中野さんはガラスびん業界を長く見てこられていますが、今の状況について思うことはありますか?

中野 さまざまな場面で“リサイクル”が謳われていますが、ガラスびんに関しては昔から当たり前に取り組んできたことですよね。ただ、いま環境面での利点をいくら語ったところで、そもそも日常の中でガラスびんに触れる機会が減っている。身近にないことには始まりませんから、その状況をどうにか変えられないかと考えています。

大川 ペットボトルと缶がほとんどですもんね。

中野 学校の牛乳も紙パックですし、「割れたら危ない」という認識が強くて、選ばれにくくなっています。でも、そうした見方を変えるような活動をしていかないといけないと思うんですよ。どの家庭にもガラスのコップは何個かあると思いますが、年間で何個も割るかというと、実際はそんなに割れませんよね。割れるかもしれないからこそ大切に扱おうという意識が生まれる。そうした“モノとの付き合い方”はとても大事で、効率や利便性を追い求める中で失ってしまった価値観を取り戻すことにもつながると思います。

大川 企業的には「割れる」ことはマイナスイメージだから言いにくいかもしれないけど、そこを受け入れて価値にしないとガラスびんの真の魅力は伝わらない気がしますよね。
以前「割れないガラスびんはつくれないのか」と聞かれたことがありましたが、それはもうガラスじゃないじゃんと思いますし(笑)

中野 そうなんですよね。業界としては工場も人材も減っていて縮小は避けられない状況ですが、それでも“ガラスびん”というジャンルが完全になくなることはないはずです。だからこそ、これからのガラスびんの可能性を探る意味でも、長く手元に置いておきたくなるようなガラスびんをつくりたいと思っています。

大川 極論を言えば、ジャンルとして絶やさないための取り組みにもなりますよね。中野さんに担当してもらったインクびんもBINKOPも、長く使い続けることを前提につくっていますし、こだわって良いものをつくれば自然と残っていくと思います。

中野 業界全体としても、安いものを大量につくるだけでなく、価格が高くても“良いもの”を増やしていければ、ガラスびんでまだまだ試せることはあると思います。本当に良いものなら、その価値を感じて手に取ってくれる人は必ずいるはずですし。

大川 その点では、すでにいろいろとチャレンジしてきている我々がそうした方向に業界を焚き付けないといけないですね。
「高いものをつくって売れなかったらどうするんだ」と、リスクを恐れて思考停止してしまいがちですが、やり方はいろいろありますから。

中野 お酒でもスイーツでも、自分へのご褒美だったり、本当に好きなものなら、価値を感じれば多少高くても手元に置いておきたくなるじゃないですか。ガラスびんにも、そうした“嗜好品”としての可能性があると思いますね。

大川 これまでは日用品としての役割が中心でしたが、これからは嗜好品としてのガラスびんのあり方も探っていけるといいかもしれませんね。
ガラスびん業界を長く見てこられた中野さんと、そういった未来に向けてまた新しいものをつくっていけたら心強いです。