
僕の好きな人 vol.9 -後編
Guest 松本浩樹さん(Coffee Supreme Japan代表)
ガラスびんを軸としながら、さまざまな分野の方とともに日々活動している大川硝子工業所。そんな大川硝子にゆかりのある人と代表の大川が、仕事や生活にまつわるあれこれをトークする「僕の好きな人」。第9回目の対談のお相手は、ニュージーランド発のコーヒーブランド「Coffee Supreme」の日本法人の代表を務める松本浩樹さんです。
前編では、音楽とエンタメ業界を渡り歩いてきた松本さんが、ニュージーランド・オークランドの一軒のカフェで衝撃を受ける転機まで伺いました。後編では、そこからコーヒーの世界へ飛び込む決意をした経緯と、Coffee Supreme Japanとしての歩みについて聞いていきます。
大川 Good Oneと出会い、いい場所だなと思うだけで終わらせずに、そこからコーヒーの世界へ飛び込んでいくことになるわけですよね。そこにはどんなきっかけがあったんですか?
松本 お店に通いながら、引き続きその先のことをずっと考えていたんです。自分にできることは何だろうと、周りにもいろいろ相談していくなかで、自分が今まで携わってきた音楽やゲーム、ずっと好きだったインテリアも含めて、コーヒーだったらいろんなものに繋げられるんじゃないかと思ったんです。これまでの自分を活かせるとわかった途端、急に「コーヒーをやりたいかも」と思うようになりました。
大川 でも、コーヒー業界での経験はなく、Coffee Supremeとの接点も当然なかったんですよね?
松本 まったく接点がなかったんですが、本当に偶然の出来事があって。友人とコーヒーを飲んでいたところに、Coffee Supremeの社長がふらっと来たんですよ。友人は僕がGood Oneのことを好きだと知っていたから「あの人が社長だよ」と教えて、紹介までしてくれて。いざ社長と話してみると、お互いダイナソーJr.がめちゃくちゃ好きだということで意気投合したんです。
大川 すごいなあ、そこでもうファミリーですね(笑)
松本 そこからオフィスにビール飲みにおいでよと誘ってくれて、ろくに英語もできないのにとりあえず仲良くなろうと思って行きました。そこでも音楽の話になったんですけど、バンド名くらいは英語がわからなくてもキャッチボールできるんですよね。そうやって彼らのコミュニティに入っていくなかで、考え方や人柄がすごく面白いと感じて、Coffee Supremeのカルチャーにさらに惹かれていったんです。それと同時に、お店というより、Coffee Supremeのカルチャーを日本に持っていきたいと思うようになって。そこから直談判して、3年かけて実現にこぎつけました。
大川 どうやって口説き落としたんですか?
松本 口説いたというより、頻繁にオフィスに顔を出したりイベントに参加したりと、地道に関係性を築いていった感じですね。Coffee Supremeのカルチャーのなかに実際に身を置きながら、日本に持っていくならこういうことをしたいと自分なりに提案も重ねて、そうやって少しずつ関係やアイデアを深めながら最終的に「じゃあやろうか!」と合意してもらえました。
大川 日本への展開はどういった形で進んでいったんですか? 最近だとまずは豆から展開するというパターンも多いと思いますが。
松本 いや、もう最初からお店をつくる方向でスタートしました。社長から日本への展開について合意を得られたのが2017年の3月で、この熱を冷ましてはいけないと思い、すぐに日本に来て物件を探しました。いくつか候補地を絞って持ち帰り、また本人を連れてきて渋谷に決めたんです。勢いのまま、同年10月にオープンしました。
大川 短い…! その決断の速さはすごいですね。カルチャーをちゃんと共有していないと、そうスムーズには進まないと思います。
僕も今年のPOPUPでニュージーランドに行った時に現地のスタッフの方と話しましたけど、松本さんと似てるところがあるなと思ったんです。それは松本さんが影響されたのか、そもそも波長が合っていたのか。
松本 両方あると思います。もちろんCoffee Supremeのマナーを受け継いでいる部分もありますけど、そもそものスタンスが似ていたというのも大きいです。ニュージーランドという国自体まだ歴史が浅く、考え方がノールールなところがあるんですよ。
大川 ニュージーランドのチームも、元プロスケーターや家具デザイナー、グラフィックデザイナーなど、いろんなバックグラウンドを持った人たちが集まってますしね。
松本 そうなんです。創業者はコーヒー一筋でしたけど、途中から加わったメンバーがクリエイティブ寄りで、彼らがリブランディングして「Good One」をつくったんです。そういった点もすごく注目されたポイントでもあって。
大川 だからこそ、松本さんのようなコーヒーとは異なるバックグラウンドのアプローチを持ち込んでいける余地があったんですね。
Coffee Supreme Japanには松本さんらしさをとても感じますが、一方で自分のノリをビジネスに反映させることに不安はなかったんですか?
松本 ありましたよ。業界的には「コーヒーの人じゃないじゃん」って言われることもあって。でも反骨精神があったので、むしろもっと言ってくれ、くらいの気持ちでしたね。他と同じことをやってもしょうがないし、僕は僕なりにやっていこうと覚悟を決めていたので。
大川 ハードコアパンク精神だ(笑) でもよくわかります。新たな場所に、自分が身を置いていた異なるカルチャーを注入することって挑戦だし不安もあるけど、だからこそ人が喜んでくれたり評価される瞬間の嬉しさは大きいですよね。特に僕らのようなタイプって表向きは遊んでいるように見えるかもしれないけど、やっぱりビジネスとしてうまくいかないと楽しめないから、地道な準備や計画をめちゃくちゃ積み重ねてますよね。
松本 本当にそうです。やりたいことを思う存分やるために、やりたくないこともしっかりやるという姿勢は大事ですよね。
大川 地道な活動でいうと、僕はCoffee Supremeと出会ってからことあるごとに松本さんに「スーツケースは用意できてるから、ニュージーランドで何かやるときは呼んでくれ」としつこく言っていて(笑)
松本 本当よく言ってましたよね(笑)
大川 その念願叶って、今年の2月に本国ニュージーランドのCoffee SupremeでPOPUPをやらせてもらいました。それでニュージーランドで数日過ごして、改めてカルチャーの違いをすごく感じたんですよ。松本さんも、日本との違いでいい意味でショックだった部分ってありました?
松本 やっぱりすごくおおらかですよね。日本はみんな忙しいし、カツカツしていて。向こうは日が昇ったら起きて、バーベキューしたり釣りしたりと、人間らしい生き方をしているなと感じました。でも、実際にCoffee Supremeのメンバーと一緒に仕事をし始めてから気づいたのは、思っている以上に「やる時はやる」ということなんです。
大川 それは僕も感じました。POPUPの時にウィンドウのカッティングシートとかも手際よくやってくれて。ニュージーランドってカフェ文化圏だから朝の客足が半端ないじゃないですか。それを千手観音みたいな動きで捌いてるんですよ。でも午後になるとめちゃくちゃ穏やかに過ごしていて、そのギャップにすごく驚かされました。
松本 基本はのんびりしているんですけど、おもてなしの精神がすごく強いんですよね。抜く時とやる時のメリハリが絶妙です。
大川 さらに面白かったのが、滞在中にフードコートに遅めのランチを食べに行ったんですけど、サブウェイで賞味期限間近のクッキーをおまけでくれたりして。そういう優しさがある反面、閉店時間が近づいてきたら僕らの周りのテーブルをわかりやすく片付け始めるんですよ。「帰れ」とは言わないけど、かなり明確に態度で示してくる(笑)
松本 はっきりしてますよね(笑)
大川 日本は自分の時間を犠牲にするくらい仕事への責任感が強く、それはそれでいいところでもあるんですけど、ニュージーランドのようなメリハリも大事だよなと感じました。
松本 どっちがいい悪いということではなく、バランスですよね。うちもニュージーランドでマクドナルドに行った時、息子と頼んだハンバーガーに肉が入ってなかったことがあって(笑)
店員に「肉入ってないんだけど」と言ったら、「あ、ごめん」ってバンズを開けて肉だけポンと乗せて返されたんです。日本だったら作り直すだろうけど、別にそれくらいの対応でもいいよなと思って。
大川 あはは! 確かに、そういう緩さがあってもいい気がします。日本において物事の動きが遅くなりがちなのって、もしかしたらそういう細かいことを気にしすぎているからかもしれないと思うんですよね。完璧を目指すのはいいところでもあるんですけど。
松本 抜きがないというのはちょっと気になるところではありますね。
大川 とりあえずやってから調整するくらいの精神でもいいんじゃないかということは、ニュージーランドで強く感じましたね。
大川 現在Coffee Supreme Japanが手がけているところでいうと、渋谷の店舗と墨田の焙煎所のほかに、自社店舗以外の運営やプロデュースもされていますよね。活動の幅が広がっているように感じますが、今後の展望はありますか?
松本 これからは、日本発の企画をニュージーランド側に逆輸入していくような動きも大事になってくると思っています。ニュージーランドはブランドも企業もそこまで多くないので、正直ネタが尽きやすいんですが、逆に日本にはネタが山ほどあるので。
それと、ここ墨田を拠点に各店舗のスタッフとのコミュニケーションを深めながら、いかに楽しいことができるかももっと考えていきたいですね。というのも、来年2027年がCoffee Supreme Japanの10周年なんですよ。
大川 大川硝子のFamiliarシリーズも来年でリニューアル10年目なので、一緒ですね。
松本 お、いいですね。10年やってきて、自分のカラーがかなり強く出てしまっている自覚もあるので、この先も長くブランドとして残っていくために、若いスタッフがもっと自主的に動けるような体制をつくっていきたいと思っています。自分自身の終活じゃないですけど(笑)
大川 松本さんも僕も、自分のカラーを会社やブランドに強く反映させてきたタイプだからこそ、いつか自分がいなくなった時にどうするか、今のうちから考えなきゃいけないですよね。
松本 まさに今向き合っていて、そのフェーズをどう積み重ねるかがかなり大事だなと思っています。
大川 コーヒーもガラスびんもなくなるものではないけれど、置かれる場所や形は当然変わっていくと思うんです。それをどう乗り越えて、楽しく変えていけるか。いろいろな経験をしてきたからこそ、そのスタンスはこれからも大事にしていきたいですね。