大川硝子工業所

読みもの

マイノリティーな道を進む二人の、やりたいことの掴み方

僕の好きな人 vol.2 -後編
Guest 関山雄太さん(デザイナー・映像ディレクター)

ガラスびんを軸としながら、さまざまな分野の方とともに日々活動している大川硝子工業所。そんな大川硝子にゆかりのある人と代表の大川が、仕事や生活にまつわるあれこれをトークする「僕の好きな人」。第二回目の対談のお相手は、デザイナー・映像ディレクターの関山雄太さんです。

前編ではお互いにもがいていた若きDJ時代から、それぞれ活動を広げながら一緒の仕事を通した挑戦の日々を振り返りました。
後編ではバックグランドは異なれど、長い付き合いを経て共通点が増えてきた二人が考える、仕事の向き合い方やいま大事にしていることをじっくり語り合います。

やりたい仕事は、まずは損をしないレベルで試す

大川 その後5年くらいデザインを依頼することはなかったけど、今年久しぶりにご一緒してBINKOPのプロモーション映像を作ってもらってね。
関山くんがだんだんウェブから映像にシフトしていったのにはなにかきっかけがあったの?

関山 きっかけはTOKYO ACOUSTIC SESSIONというプロジェクト( https://tokyoacousticsession.com )を始めたことだね。東京都内を背景にしたセッション映像を配信するというもので、周りにミュージシャンが多かったからその人たちとCDとかウェブデザイン以外の関わり方ができないかなと思って始めたもので。最初は撮影と編集をそれぞれ友達に頼んでたんだけど、自分でもやってみたのが始まりだね。

大川 さっきのウェブの話もそうだけど、任せられないっていうよりは最終的に自分もやりたくなっちゃうってことなんだよね。

関山 そうそう。器用貧乏とも言えるかもしれないけどね。

大川 でも関山くんのそういうところも、仕事において雛形にしてるんだよね。
つまりさ、損をしないレベルで試す、ということを最初にやるじゃない。本業になる前に自分を推し測るみたいな。TOKYO ACOUSTIC SESSIONだってギャラとかないだろうけど、結果これが仕事になったらいいなっていう気持ちでやっていくわけだよね。そういうスタンスはすごく尊敬してるし、仕事ってやっぱりそうやった方がいいと思っていて。

これをやるにはこれだけの年数を踏まないといけないとか、これだけお金をかけないとできないみたいな考えってあると思うけど、まずはできるところからやっていった方がいいよね。
例えば、映像だといまなんかスマホでやれるとこまで自分でやってみるくらいのスタートでも充分なわけじゃん。そういう自分が損しないレベルで、やりたいことに挑戦するってめっちゃ大事だよね。楽しみながら経験を積んでいくというか。下積みがすごくきついとかやっぱり嫌だしさ(笑)

関山 自分にその感覚があるのはインターネットがあったからだと思うね。いまの若い子もスマホで映像撮ってTikTokあげたらバズっちゃったみたいなことってあるけど、それに近いことを学生時代からインターネットでやってたのかなとは思う。

大川 そんな関山くんに作ってもらったBINKOPの映像は、自分の中でやりたいことが結構明確にあって100%その通りにできたと思ってるんだよね。それは俺のやりたいことを関山くんが深く理解してくれたところも大きくて、作ってる間もおもしろかったけど、関山くん的にはどうだった?

関山 音楽の仕事と違うから楽しかったよ。割とバシッと決まったしね。大川くんからイメージの元になっている映像を共有してもらったんだけど、それが世代的にもわかるものだったから超やりやすかったよ。あの短さでくすっと笑えるものの感覚は、同じものを見てきていないとなかなか目指せなかったと思う。

大川 プロモーションの結果の話をすると、あの動画でSNS広告出したことによって購買よりもお店に導入したいって連絡の方が多かったのよ。こちらの目的としてはBtoC向けで、生活者の人に買ってもらえたらいいと思ってたら、意外とお店をやっている人が見てくれてて業務用として採用したいって言ってくれたんだよね。目論見とは違ったけど、あの動画のインパクトはちゃんとあったよ。

関山 そうなんだ、すごいね。でもやっぱりあの動画作るって言い出したのびっくりだったもん。BINKOPの背景にあるリサイクルとか環境問題のストーリーをしっかり聞いた後だったから、動画も真面目にした方がいいんじゃない?って言ったよね。

大川 うん、言われたね。自分から散々背景の説明しておいて、動画では一切説明しないっていうね。
やっぱりひねくれてるからさ、普通の方向ではやりたくなかったんだよ。もうこの動画と死ねれば本望だ!くらいの気持ちで。最初はリアクションがイマイチだったから、「記念に作りました」みたいになっちゃったかなと少し凹んだりしてたんだけど、ちゃんと販売にもつながって、損をせずに試せてよかったな。

あとさ、DJ以外にもお互いにpodcastをやってた時期があったり、先生の仕事をしてるとか夫婦で仕事をしてるとか、結構共通点があるじゃない。その中で先生業はどういう縁があったの?

関山 イベントで知り合った人から依頼をもらったんだけど、その頃ちょうど子供が生まれることが決まって、 自分のためだけじゃなくて誰かに与える側になりたいっていう感覚になってたんだよ。
会社員時代が少なくて後輩がいたことがなかったから、普通30歳前後でやりそうな下の世代の子に教えるという経験をしていないコンプレックスもあって、引き受けたんだよね。

大川 関山くんのpodcastのリスナーだったから覚えてるけど、もっと前は子供に全然興味ないって言ってたのよ。だから先生になって下の子を育てることになったのは結構びっくりしたんだよね。人って変わるんだなと。

関山 よく覚えてるね(笑)
でもpodcastは自分のためにやっててよかったな。今思っている事と全然違う事を言ってるし、考えとかやりたいことってどうせ変わるんだなって思ったよ。

大川 俺も同じくらいの年齢の時期にいろいろ考えが変わったんだよね。同じように子供が生まれるタイミングだったけど、関山くんとは違って逆にそこから仕事を一生懸命にやる時期に入る頃だから。
でもそこで変わってから、最初こそ関山くんは嫉妬の対象だったけど、だんだん俺も同じ立ち位置に近づいてきたなとも思えるようになっていったかな。子供とか家族とか共通の話題もできるようになったし、出会って15年ぐらい経ってようやく肩が並べられるようになったな〜と。

関山 あはは!そんなことないでしょ(笑)

何かあるかもしれない方向に行く、の大切さ

大川 最後に最近の話になるけど、関山くんはいま台湾の仕事が多いの?

関山 そうだね、台湾のバンドで初めて依頼をもらったdeca joinsの『Go Slow』っていうミュージックビデオが金曲奨(中華圏最大の音楽アワード)にノミネートされて、それがきっかけで沢山依頼をもらってて。台湾の仕事は自由度が高くてすごく楽しいよ。結構好き勝手にやってくださいって委ねてくれて、作家として見てくれてる感じがするかな。
でも僕はあんまりアーティストじゃなくて、やっぱり元はデザイナーなんだよ。

大川 おお、なるほど。

関山 実際、自分の作家性みたいなものは何もないんだよね。だから案件ごとにスタイルは変わるのかな。
少し前に作ったAmazing Showという台湾のバンドのミュージックビデオは、一見男女の恋愛の話のようだけど、裏テーマとしては母親と息子の話になっていて。その映像の中には、男性が水中をもがいてるシーンとか、赤い糸をハサミで切るシーンとか、抽象的なものがいろいろあるんだけど、それはちょうど自分に子供が生まれた時の体験をミュージックビデオに反映してたのね。
というのも、うちの子供が生まれた時、俺がへその緒を切ったんだよ。

大川 へーそうなの!

関山 そういう助産院で産んだんだけど、その体験の衝撃が大きくてすごく良かったなと思ってて。ミュージックビデオをつくったその曲も、深読みしていくとそういった体験が当てはめられるなと思って、出産という題材を使わせてもらったのね。自分の体験をミュージックビデオにすることって、そもそも曲と合わないとできないから貴重じゃん。だから、またそんな曲を撮る機会があればいいなと思うし、いろんな体験をしておこうと思ってる。そこの幅が広がらないと作るものにも反映できないし。

大川 関山くんはいま38歳でしょ?その年齢ってだんだん昔よりもファッションとかカルチャーへの興味とか薄らいできて体験の機会も減ってると思うんだけど、新しい体験を得るためには、お誘いには積極的に乗ることが大事だと思うんだよね。今日はちょっとめんどくさいなとかスケジュール的に厳しかったとしても、行ったら何かあるかもしれないじゃん。

関山 何かあるかわからないけど、何かあるかもしれない方向に行くのは大事だよね。このミュージックビデオを作ってから、人の話も積極的に聞くようになったな。

大川 学生との付き合いがあるのも大きいだろうね。若い子の考えていることに共感まではできなくてもさ、こういう風に考えてるんだなって思えるだけでも違うし。
あと、いままでだと仕事が落ち着いてる時期なんかはついぼーっとしちゃったり、ずっとできてなかった細々した仕事を整理をしようとか思うんだけど、それよりも悩んでることとかを人に打ち明けて、自分の考えが合ってるのか話すってことを大事にしてるんだよね。
少し話戻るけど、自分の体験を反映させていくっていうのはクライアントの案件だったとしてもそれは考える?

関山 そうだね。さっきのミュージックビデオがめちゃくちゃ評判良くて、この間台湾の友達と話してたら、あの作品すごいねって言ってくれる人がいたんだよ。自分でもはじめてデザイナーっぽくじゃなくて、アーティストっぽくできた感覚があって、クライアント案件でもそういう挑戦はできるんだなと思ったな。

大川 それは表向きはお客さんのことをやってるけど、実は中身は自分の好きなことで構築されてるみたいなことだよね。 だけどお客さんが喜んでくれればそれでいいし、そこに御法度はない。

関山 これまでたくさん映像を作ってきて、それぞれが持つ作品の雰囲気が自分の作家性と言えるのかもしれないけど、やっぱり基本的にはデザイナーの視点でしかないからね。でもその仕事に関してははじめて自分が出せた感じがして、それをもっとやっていきたいかな。

大川 そういうタイミングを見計らうためには、さっき言った体験の蓄積が重要になってくるわけだしね。関山くんは昔から結構お誘いに乗るスタンスがあるじゃん。それだけは本当に大事だぞ!と若い子に伝えたいね。

関山 あはは(笑)この録音データほしいな。寝る前に聞いたらすごい自己肯定感が上がりそう。

大川 おじさんの褒め合いだけど(笑)
やっぱりさ、誘われた先に飛び込むと何かしらの体験があったり知らないこと知れたりとか、 その後仕事になったりとか何かしらに繋がる可能性はあるじゃない。あとだんだんお誘い慣れしてくると、目利きがついてくるし、その感覚は大事だと思うな。

関山 ああ、それもわかる。いまって自分たちの若い頃ほどお誘いそのものが減ってるのかもしれないけど、だからこそお誘いに乗るのは貴重な機会だよね。